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単語のコアを求めて(2)

田中茂範(慶應義塾大学教授)

 英語でgive のコアを表現すれば “cause A to GO” となり、受け手が示された場合は、cause A to GO to B となります。すると、give A to B の構文は、AがGOすることが可能なもの(移動可能なもの)に限られるということになります。だから、a headache は不可なのです。Give me a break. のa break も同様に不可です。一方、二重目的語構文の場合は cause [B HAVE A] to happen となり、give B Aの場合には[B HAVE A] という関係が成り立てばよく、Aは移動可能である必要ななくなります。この場合何をgive しているのかといえば[B HAVE A] という状況(ことがら)ということになります。いずれにせよ、give のコアがわかれば、構文上の制約も説明がつくということです。

 実は、コア理論の魅力はそれだけではありません。give を伴う句動詞には、give off, give up, give away, give out, give over, give inがありますが、ほとんどの場合、「自分のところから出す」が背後にあり、その出し方、出す方向、あるいは出した結果に焦点が置かれるのだということが分かりました。「give = 与える」の図式でこれらの句動詞を理解しようとしても無理でした。しかし、give のコアを「自分のところ(HAVE空間)から出す」とすることで、give away (気前よく与える、秘密などをもらす)だと「何かを自分のとこから出して、遠くに放つ」、give off(臭い・気体などを出す) だと「何かを自分のところから出して、離れさせる」、give up (やめる、放棄する)だと「何かを自分のところから出して、上方に差し向ける」、give in (提出する)だと「何かを自分のところから出して、どこかに入れる」といった図式融合の考え方で句動詞を理解することが可能となることがわかったのです。

 例えば、クリントン女史がオバマとの大統領戦の終盤において、敗北の色が濃くなった頃、”I’m not going to give up, never never give in.”と表現し、支援者からの拍手喝采を浴びる場面がテレビで放映されました。この英語表現はどういう事態を表しているでしょうか。日本語では「私は諦めるつもりはないし、決して相手に負けはしない」 となるでしょう。しかし、これではgive up とgive in の絶妙な組み合わせが伝わってきません。大統領戦はcampaign でありraceです。give up は「走っている途中で(自らを)ポンと上に投げ出す」という意味合いです。そして、大統領選は陣営同士の戦いであり、give in も自動詞で使われていることから、give するのは「自ら(self)」ということで、句動詞としては「自らを差し出して(give)、相手の陣営に入れる(取り込まれる;屈服する;軍門に下る)」といった意味合いになります。このように考えるとクリントン女史の表現が表す事態が感得できるはずです。コア図式の融合(結合)による説明の可能性については、多くの句動詞で検証していますが、大変に説明力が高いということが分かっています。

 ここまで有効性が確認されれば、英語教育の可能性としてコア理論を提案主張することができます。そこで、コア理論に基づく初の『Eゲイト英和辞典』(ベネッセコーポレーション)の編纂を行いました。そして、そこからさまざまな応用の可能性が広がっております。

 このように本質がわかれば、広範にわたる言語現象が説明可能になる。ここに言語研究、ひいては言語理論の真髄があるように思います。

田中茂範先生の最新刊

2009年10月9日 掲載


単語のコアを求めて(1)

田中茂範(慶應義塾大学教授)

 言語学は言語を記述し、説明する学問です。「説明する」ということは、「言語というものは説明可能である」という前提を含んでします。ぼくは、この前提に強い信念を持っています。しかし、問題は「何のために、何を、どのように説明するか」ということです。「何のために」が「何を、どのように」の中味の妥当性を決めるのです。ぼくは、英語という言語に興味があり、「英語教育」に軸足を置いて、英語の研究をしています。そこで、当然、英語を学ぶための役に立つように、英語について説明するということに関心があります。ここではその説明理論の1つであるコア理論を取り上げたいと思います。

コア理論は、「1つの語には1つの本質的な意味(コア)がある」という立場を採る考え方です。ここでgive という動詞を取り上げてみます。giveといえば「与える」が連想されるでしょう。ぼくも「give =与える」を当然のことと考えていました。研究のきかっけとなったのは、She gave a belch.(彼女はゲップをした)という文でした。これは「与える」ではどう考えてもおかしい。そうしてみると、The sun gives light./ Cows give milk. / The experiment gave good results. / Naomi gave an excellent speech. など幾らでも「give = 与える」では理解できない用例が出てきました。極めつけは、ホテルのフロントでI gave my coat to the clerk.という使い方でした。この場合、状況的にみて、コートを「与えた」のではなく「預けた」のです。

 だとするとgive って何だ、ということになります。改めて問い直す――re-searchする――ことが必要となるのです。試行錯誤の結果、「何かを自分のところから出す」というのがgive のコア(本質的な意味)だと分かりました。「自分のところ」とは単に場所を表す「ところ」ではなく、英語でいえばHAVE空間のことで、ここでいうHAVE空間とは主語の所有空間・経験空間のことだといえます。「自分のところから何かを出す」をgive のコアとすることで、感覚的に上記の例はすんなり理解することができました。The sun gives light. にしても、Naomi gave an excellent speech. にしても「自分のところから出す」で理解可能となります。宛先が省略されているのではという疑問もありましたが、She gave a belch.のような使い方を検討すると、「ゲップ」の宛先など考えられません。

 だとすると、give は「自分のところから何かを出す」がコアで、その宛先を示すと「与える」という意味になるのだと考えることもできるでしょう。しかし、この考え方に問題があります。上記のI gave my coat to the clerk. がうまく説明できないからです。宛先はto the clerk によって示されています。しかし、解釈上は、「与えた」という解釈より「預けた」という解釈が優先される状況がこの例です。このように、宛先がto+名詞句で示される場合でも、「give = 与える」ではうまくいかない場合があります。しかし、give のコアを生かして「give =自分のところから出す」と考えると、「預ける」と「与える」の2つの解釈が可能となります。   さらに、コア理論は、構文的な問題を解決する方法になることもわかりました。I gave my coat to the clerk. をI gave the clerk my coat. と表現することが可能です。後者はいわゆる「二重目的語構文」です。しかし、構文が違えば働きも違うため、いつも置き換えができるわけではありません。例えばJohn gave Mary a headache. という文を考えてください。これはJohn gave a headache to Mary. とすることはできません。何故でしょうか。これが「構文的な問題」です。常識的に、頭痛をジョンが持っていてそれをメアリに与えるということはありえないことです。つまり、John gave Mary a headache. のMary は「何かの宛先(受け手)」ではなく「何かを経験する人」なわけです。そこで、Mary とa headache の関係は[Mary HAVE a headache] という意味関係になります。すると、John gave a bike to Naomi. とJohn gave Naomi a bike. は異なった構文ということになります。そしてどう異なっているかを説明するのがコア理論です。

田中茂範先生の最新刊

2009年9月11日 掲載


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