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シャーロック・ホームズの「推理学」が教えてくれること

坪本篤朗(静岡県立大学教授)

 コナン・ドイル(Sir Conan Doyle)は「観察と推理の習慣を一つの体系にまで」発展させ、絶対に失敗しない私立探偵を創造した。それがシャーロック・ホームズである。ホームズは、ワトソン博士に対して自らの「推理学」を述べている。このようなことを書くのは、それがなにがしかの真理を追求しようとするもの−言語学を勉強しようとするもの−にも等しく当てはまるように思われるからである。たとえば、ホームズは、当初の予測と違った事態に直面したときにどのように対処すべきかということについて、(1)「自分の推理に、もっと自信をもたなくては。ある事実がこれまでたどってきた推理と矛盾するなら、その事実は必ず別の解釈が可能だということに、すぐにきづくべきだ」、また、(2)「もっとも重要なのは、数多くの事実の中から、どれが付随的な事柄でどれが重大な事柄なのかを見分ける能力です。これができないと、精力と注意力は浪費されるばかりで、集中させることができません」と言う。ワトソンが事件の意見を求めたのに対して、(3)「まだ、資料がない。論拠を持たないうちに理論を構築しようとするのは、重大なあやまちだ。事実に合う理論をつくり出すかわりに、無意識のうちに理論にあわせて事実をねじ曲げるようになってしまう」とたしなめる。さらに、(4)「観察力の鋭い人間は、目の前の事象を正確かつ体系的に検討することによって、いかに多くのことを学びうるか、あらゆる学問と同様に、『推理分析学』も長年の研鑽の末にはじめて習得しうる」と言うのである。

 とりわけ、(3) などは理論という名前のもとに往々にして見られる傾向を思い起こさせ、大いに我々の注意を喚起してくれる。ホームズの「推理学」はScience of Deduction(演繹推理の学)となっているが、他方、個々のものから一般論を引き出すインダクション(帰納推理)と言う方がふさわしいという意見がある。しかし、ホームズの手法は、帰納的方法と演繹的な方法を用いて、「推理分析学」が科学的探求のひとつになるよう意図しているように思われる。

 このようにホームズの手法を参考にして言語学の場合を考えると、どのような理論的な枠組みを勉強するにしても、やはり、柔軟な視点と、十分なデータの「観察」の大切さを教えてくれていると思う。

坪本篤朗先生の最新刊

2008年4月11日 掲載


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