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比較の効用

原田かづ子(金城学院大学教授)

 日本語が母語である私たちにとって、日本語は空気のように当たり前であり、特に日本語について考えることは、通常ないと言ってよいでしょう。また、私たちは遅くとも中学生になると、外国語である英語を学び始めます。そのとき、何となく発音が違うなとか、語順が違うなという意識はあるかもしれませんが、意識的に日本語と比較しながら英語を学ぶことはまれで、英語は英語として切り離した形で学んでいるのがふつうではないでしょうか。

 実は、日本語と英語は対照的な言語です。wh疑問文の例をあげてみましょう。

(1) 太郎は 本を 買いました。
(2) 太郎は 何を 買いましたか。
(3) John bought a book.
(4) What did John buy?

 日本語では、平叙文 (1) に対して、何を買ったかわからないときには、(2) のように「本を」の代わりに疑問詞の「何を」を用い、文末に疑問を表す終助詞を付けます。一方、英語では、平叙文 (3) に対して、「a book」の代わりに疑問詞「what」を使うことは同じですが、「what」は「a book」と同じ位置にはなく文頭に移動しています。つまり、日本語では疑問詞の移動がないのに、英語では疑問詞の移動があるのです。その他の構文でも日本語と英語を比較してみると、英語ではいろいろな要素が移動していることがわかります。これまでの研究で、日本語は移動が少ない言語であるのに、英語は移動が多い言語であることがわかっています。

 日本語では移動が少ないのに、英語では多いという事実は、一つの言語を見ていただけではわかりません。両者を比較して初めてわかります。そして、そのような事実を知ると、次は、なぜそうなのかという新たな疑問が起こります。私自身は、子どもがどのように言語を獲得するのかという課題に関心があるので、移動の有無により獲得に違いがあるのかを調べてみました。その結果、上のwh疑問文については、約3ヶ月日本語を母語とする子どもの方が早く獲得することがわかりました。意味的には、日本語のwh疑問文と英語のwh疑問文には違いがないので、この獲得の時期の違いには、移動の有無がかかわっているらしいことに気づきます。すると、なぜ移動があると獲得が遅くなるのかという新たな疑問が起こります。言語を比較することにより、一つの言語だけを見ていたときには出てこなかったような新たな問が出てきます。このような問に対する答えを求めて日々研究に取り組んでいます。

原田かづ子先生の最新刊

2008年9月12日 掲載


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