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「飲む」とdrinkとSVO

時崎久夫(札幌大学教授)

 高校2年の国語の授業。先生が僕たち生徒に質問しました。「英語のdrink water, eat soup, take medicine, smoke a cigarette は、日本語ではみな『飲む』という動詞で表せる。水を、スープを、薬を、タバコを、『飲む』と言える。では日本語の『飲む』とはどういう意味だ?」生徒が席順に次々と指名されていきますが誰も答えられません。「田中ぁ、前田ぁ、水野ぉ、…」(あ、もしかしたら …)「時崎ぃ、鈴 …」目立たず、期待されていなかった僕は、通り過ぎられる瞬間に小さな声で答えました。「のどを通す。」「… ん?そうだ、『飲む』とは『のどを通す』ということだ。」先生のこの一言が、僕を言語学へと導いたのでした。

 気を良くした僕は、授業で紹介された新書『ことばと文化』(鈴木孝夫)をすぐに買って読み、言葉の違いの面白さに引き込まれて、大学で研究者を目指そうと思いました。ちょっと質問に答えられただけだったのに。

 それから30年。幸いにして、今も言葉の違いを研究して結果を発表しています。最近は、語順と音声の関係について取り組んでいます。例えば英語は I love you という、主語・動詞・目的語の順(SVO)ですが、日本語は「私はあなたを愛する」で、主語・目的語・動詞の順(SOV)です。また、英語は strict のように、1つの母音の前後に子音が多く出てきますが、日本語は「ねこ(neko)」のように、子音・母音・子音・母音 … という形しかありません。英語は音節が複雑な言語、日本語は音節が簡単な言語です。そして、一般に動詞・目的語の語順の言語は音節が複雑で、目的語・動詞の語順の言語は音節が簡単だという仮説が示されており、僕はそれを理論的に説明しようとしています。一見、無関係な語順と音声が実は深い理由で関係していて、世界の言語がすべてそれに従っている。この大きなテーマにロマンを感じて、打ち込んでいます。

 現在はデータベースも充実して世界の言語の特徴が簡単にわかり、研究がしやすくなりました。言語構造世界地図(The World Atlas of Language Structures)はネットで無料で見ることができます。試しに、http://wals.info/feature/81 と打ち込んで、show map というボタンをクリックして下さい。数秒後に世界中の言語の主語と動詞と目的語の語順が地図上にカラフルに表示されます。さらにいろいろクリックすれば、最新の詳細な研究成果が見られます。

 本を読んで、データを調べて、また読んで。「飲む」と drink から始まった言葉の違いの研究を、僕はこれからも続けていこうと思っています。

時崎久夫先生の最新刊

2008年9月26日 掲載


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