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「言語学への誘い」(1)

稲田俊明(九州大学教授)

 読書案内に、この本を読むと、「地球の裏側のある町の路地裏を掘っていたら、いつの間にか自分の家の庭にポッカリ開いた穴に通じていることに気づかされる」という解説がありました。言語研究も正にそのようなものです。逆に、自宅の物置をごそごそ探していたら地球の裏側の教会にいるのに気がついた、ということも稀ではありません。

 言語学を知らない学生と一緒に、次のような疑問について考えたことがあります。博多ラーメンの麺のお代わりは「替え」(kae)+「玉」(tama) で「替え玉」(kae-dama) ですが、玉の輿の逆は「逆玉」(gyaku-tama) で、[gyaku-dama] とならないのはなぜか? 少し高度な疑問としては、「たらい」(tarai) は「手洗い」(te-arai)から、「嘆き」(nageki) は「長息」(naga-iki) から変化したものだが、このような音変化には規則があるのだろうか? 複合語の意味について、「猫じゃらし」や「鼠取り」の意味はすぐ分かるが、「猫またぎ」の意味は間違えるのはなぜか? 日・英語の違いについて、Who ate what?(誰が何を食べたの)とは英語で言えるが、Who died why?(誰がどうして死んだの)とは、英語の純粋の疑問文としては言えない。しかし、この違いに日本人英語学習者は気づかないのはなぜか?

 最初の課題は「連濁」の応用問題です。複合語の後部要素の第1子音は濁音になりますが、「逆玉」(gyaku-tama) では、そうなりません。これは、言語が表面的形式だけではなく、“こころの表示”を持つことを示す重要な事実です。表現は省略されても、人間のこころには、あるべき姿が残像のように残ります。「逆+玉」は、表面的には(野球のピッチャーが投げる)「逆+球」と変わらず、[gyaku + dama] となるはずです。しかし、こころの表示では、「逆+玉(の輿)」となると考えれば、「逆球」と「逆玉」は同じではありません。    言語学には、問題を科学的手順を踏んで解いていく楽しさと醍醐味もあります。Prentice Hall社から出版されているアメリカの高校生用の生物の教科書では、冒頭で「科学とは何か」「科学的方法とは何か」が解説されています。科学的方法とは、(i) 事実を観察する、(ii) 仮説を立てる、(iii) 仮説を検証する、(iv) 反証されない仮説を残し結論とする、と書かれています。次回は、具体例を取り上げながら、言語の問題を科学的方法で解決することの醍醐味を述べます。

稲田俊明先生の最新刊

2008年11月21日 掲載


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