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「言語学への誘い」(2)

稲田俊明(九州大学教授)

 問題を科学的方法で解くことに言語学の醍醐味があると述べました。具体例として、前回触れた第2の問題について考え、既存の有力な仮説にチャレンジします。

 まず、(i) 事実の観察です。2つの母音が1つに融合するという事実は、文献にも記されています。この課題の面白さに最初に気づいた窪薗さんは、長息 (naga-iki) → 嘆き (nageki)、機織り (hata-ori) → 服部 (hatori) などの他にも豊富な実例を挙げています。歴史的変化だけではなく、現代語でも変化が観察できます。高い (takai → take:), 酷い (hidoi → hide:) 、寒い (samui → sami:) などです。TV番組の『ごくせん』では、「お前 (ome:) たち、卒業したくない(ne:) のか。辛い(tsure:)ことも我慢しろ!」と言うだろう、という判断もできます。

 事実の整理のため、融合する前の2つの母音のうち最初の母音をV1、第2の母音をV2として、融合した結果を整理すると、表1になります(NAは実例が見つからないもの)。

 次のステップは、(ii) 仮説を立てることです。まず、説明のために次のようにします。母音の調音法を示した図1により、i, u を<高い母音> 、その他は< 高くない母音> とする。すると、i + u → u, e + a → a のように、(A)「同じ高さの母音を融合すると後部母音 (V2) が残る」ことが分かります。また、a + i → e, a + u → o, のように、(B)「高さが違う母音(枠内と枠外)を融合するとV2とはならず、V2の高さを中間点に調整」します(中間点とは、e, oの位置です)。(A) (B) をまとめて「後部中和説」(α仮説)と呼ぶことにします。

 第3のステップは、(iii) 仮説の検証です。実は、この課題には既に有力な窪薗説 (K仮説)があります。従って、新しいα仮説はK仮説とは違うことを示さねばなりません。詳細を述べる余裕がありませんが、K仮説では、表1の事実の多くを説明できません(例えば、「端折る」、「錦織」や、「福岡」など)。

 最後のステップは (iv) 反証されない仮説を採用することです。チョムスキーは、講義の中で “Mere facts tell you virtually nothing.” と述べたことがあります。単に事実を観察するだけではなく、背後に隠れた規則性を発見することに研究の喜びがあります。また、通説や権威のある学説にチャレンジする過程も研究の楽しさのひとつです。

稲田俊明先生の最新刊

2009年2月13日 掲載


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