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同じことの不思議さ

岸本秀樹(神戸大学教授)

世界にはいろいろな人がいて,実にいろいろなことばが話されています。そして,異なることばを比較してみると,どう違っているかということが話題になりやすいのではないかと思います。比較的身近な日本語と英語を考えても,語の並べ方が違うとか,母音の数が違うとか,とにかく違いに目が奪われることが多いでしょう。

しかし,いくつかの異なることばをじっくり研究すると,もっとおもしろいことを発見できます。それは,ことばの規則(文法)の共通性です。もちろん,ことばを使ってコミュニケーションを行うには,みんなが同じ規則(文法)を知っている必要がありますし,実際,そのようになっていることは容易に理解できます。しかし,ことばを研究していて,もっとおもしろいことは別にあります。それは,一見関係のないことばでも,よく見ると同じ規則を使って文を作ることがあるということです。

少し具体的な話をすると,古い日本語では「係り結び」という規則があったということを古典の時間に習ったのではないかと思います。

現代の日本語ではこのような規則はなくなってしまっていますが,実は,これとまったく同じ現象は,他のことばでも見つかるのです。私はスリランカで話されていることばであるシンハラ語の研究をしばらく研究していましたが,このシンハラ語には,まさに今の日本語でなくなってしまっている「係り結び」の規則があります。

英語には「係り結び」の規則はありません。しかし,ことばの系統から見ると「係り結び」のあるシンハラ語は,英語と同じインド・ヨーロッパ語族に属し,日本語よりは英語に近いのです。同じことばの規則がまったく系統の異なる日本語とシンハラ語で見つかるなんて,とても不思議ではありませんか。しかも,係り結びの規則は,実はどうも世界中のことばを見渡してみると,時々見つけられるもののようなのです。この「係り結び」のように,すべてのことばには見られなくても,時にひょっこりと顔を出すことばの規則ってなんだろうかと思いませんか。世界にはたくさんのことばがあり,使われる規則や決まりもさまざまで,見たところ同じである必要もないところに,同じことばの規則が突如現れてくるのですから,実に不思議です。

しかし,それにはそれなりの理由があるはずで,そこには何かことばの秘密が隠されているのではないかと考えたくなります。そして,それを突き詰めていけば,「ことばとはいったいどういうものなのか」という,ことばの本質(そして,ひいてはことばを操る人間の本質)にせまる問いかけに対する答えが導きだせるのではないか。そんなことを考えていくと,ことばに対して大いなる探求心がかき立てられるのではないでしょうか。

岸本秀樹先生の最新刊

2009年4月10日 掲載


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