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英語の歴史を知ると、なぜ英語が面白くなるのか

家入葉子(京都大学准教授)

 英語史との出会いは、約20年前のこと、大学でたまたま英語史の授業を受けたことが始まりである。その後、英語史を研究テーマとして選び、今日まで長い付き合いを続けている。小論では、「英語の歴史を知ると、なぜ英語が面白くなるのか」を考えてみたい。

 第一に、英語の歴史を知ると、文法や語彙をただひたすら覚え続けなければならないという「外国語学習に典型的な苦痛」から解放される。makeのような動詞は疑問文にするときに助動詞doを使用するが、be動詞はdoを使用しない。これをただ覚えるよりも、歴史的には動詞makeも、助動詞doを使用しなかった時代があると知った方が、言葉が生きていることを実感できる。deerの今日の意味は「鹿」だが、昔は「動物」だった。なるほどドイツ語の「動物」を意味するTierに形が似ている。こちらの方が、言葉をより身近に感じることができる。言語的事象が、ストーリーとともに語りかけてくるからである。

 第二に、学習に付き物の「評価」の意味合いが緩和される。せっかく語学を楽しく学んでいても、「正」「誤」ということに縛られるのは興ざめだ。といって、「誤り」を「正しい」とすることもできない。たとえ言葉の側に不合理があっても、学ぶ者はそれを「正しいもの」として受け容れなければならない。myself, yourselfと来れば、hisselfがあってもおかしくない。が、「正しい」英語はhimselfである。このようなときに、現在でも方言の中にはhisselfがあると知ると、ほっとする。歴史的にはhisselfが使用されたこともあったと知ると、ほっとする。これを知るだけで、himselfを素直に受け入れることができる。the United States of Americaを複数で受けることもあった。やはり、なるほどと思う。このような知識は「誤り」を助長するのではない。むしろ、「正しい」ということに、より大きなインパクトを与えるのである。

 そして第三に、英語の歴史を知ると、英語そのものをますます観察したくなる。英語はアングロ・サクソン人がブリテン島に渡ってから今日に至るまで、大きな変動を繰り返しながら発達してきた。動詞の三人称単数現在につける-sが確立する前には、-(e)thの語尾の方が頻繁に用いられていた。現在進行形が今日のように広がったのは、比較的最近のことである。それなら、英語は現在も変化しているのではないか。確かにそうである。たとえば、往来発着の動詞は進行形で未来を表すと言われるが、進行形で未来を表す用法は、往来発着以外の動詞にも相当に広がっているようである。したがって、「英語を習得しました」と言うことは簡単ではない。外国語の習得が難しいからではない。言葉と学ぶということは、言葉を観察しながら、ともに歩み続けることだからである。ますます言葉が身近な存在になるに違いない。

 このように、英語の歴史は、英語を身近なものとしたいすべての人のためのものである。言語の研究に興味をもった特定の人たちだけのものではない。

家入葉子先生の最新刊

2009年11月20日 掲載


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