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言語研究のおもしろさ―慣用表現の不思議

武田修一(静岡県立大学教授)

 外国語を勉強していると、その過程で様々な疑問に遭遇します。私たちにとって身近な外国語の一つである英語の勉強の場合もそのような経験をすることが数多くあります。そんなとき、辞書や参考書をひもといてみますが、納得のいく解答が得られないこともしばしばです。このような疑問を自分なりに時間をかけて解決していくことが言語研究の始まりであると考えます。

 英語の勉強の一つとして慣用表現の学習があります。このような表現については、個々の構成要素の存在のことは考えず、そのままの形でその意味と用法を暗記するように指導されることがほとんどです。しかし、ここで様々な疑問が生まれてきます。例えば、「慣用表現を構成する単語にはまったく存在意義がないのか」、「単語間には組み合わせの相性(「コロケーション」と呼ぶ)があるが、慣用表現にはその種の現象はないのか」などの疑問を感じたことはないでしょうか。

 第1の疑問については、例えば、pull strings(「コネを利用する」などの意味)という慣用表現が好例です。この慣用表現は、pull a few strings、pull any stringsなどに見るように、stringsの直前に様々な限定詞を伴って使われます。これは、名詞stringsがその力を残していることを示唆します。Fellbaumという言語学者は、以下のような例も挙げながら、慣用表現に見る限定詞の役割について興味深い議論を展開させています。

 (1) I knew all the chairmen of the committees,
    but I thought it too risky to pull those strings.
    (C. Fellbaum. “The Determiner in Idioms.” 1993)

第2の疑問については、例えば、(2)のgive ~ a shotのように、itを伴った形でよく使われる慣用表現が注目に値します。さらに、例えば、(3)のbite the bulletのように、一定の表現を伴わないとどことなく不安定な慣用表現もあります。

 (2) I’ve never tried bowling before, but I thought I’d give it a shot.
   (Cambridge Advanced Learner’s Dictionary)
   (itは<ボウリングを行うこと>を意味します。)
 (3) I finally bit the bullet and left.
    (Longman Dictionary of Contemporary English)
   (and leftがないと情報不足の感じがします。)

 このような事例に気づくことは、単に英語の学習過程での一経験ではなく、慣用表現の意味論、さらには、言語と認知のかかわりを論じるような、言語研究の新たな領域に入り込んでいく第一歩となるものなのです。

【武田修一先生の著書】

英文法のからくり―英語表現の意味を「推理」する (丸善ライブラリー) ISBN: 978-4621053416 出版社: 丸善

英語意味論の諸相 ISBN:978-4-89798-558-9 (4-89798-558-7) C1082 出版社: リーベル出版

2009年12月4日 掲載


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