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言語研究の面白さ

宇賀治正朋(東京学芸大学名誉教授)

 私たちは色彩に囲まれて生きている。私はいまこの原稿を黒色のボールペンで書いていて、目を上げて外を見れば、小道を隔てて隣家の白いコンクリ塀があり、内側からスケルツオという名のバラが何本も伸びて濃い緑の葉をのぞかせ、細かく分かれた枝先に、赤に黄色を混ぜ合わせたような独特の深みのある朱色の花をたくさん咲かせている。青空の下でひときわ美しい。

 ここまで書いてきて、すでに7つの日本語の色彩語、黒、白、緑、赤、黄、朱、青に言及した。外国人なら同じ状況をどんな色彩語で表現するのだろうか。彼らの色彩語のセットは日本語の色彩語のセットと同じか。Brent Berlin and Paul Kay (1969) Basic Color Terms: Their Universality and Evolution, U. of Cal. Press によれば、両人が調査した98の言語には全体で11の基本的色彩カテゴリー white, black, red, green, yellow, blue, brown, purple, pink, orange, grey があり、各言語はこれらのカテゴリーの中からそれぞれ一定数を自由に言語化して色彩語としているらしいという。その際、ここが重要なのであるが、言語化したカテゴリーが11未満である言語では、どのカテゴリーを言語化するかに関し次の一定の通言語的な厳しい制限があるという。

  1. どの言語にもwhiteとblackを表す2つの色彩語がある。
  2. 色彩語が3個ある言語ではredを表す語がある。
  3. 色彩語が4個ある言語ではgreenかyellowのどちらか一方を表す語がある。
  4. 色彩語が5個ある言語ではgreenとyellowを表す語が両方ともある。
  5. 色彩語が6個ある言語ではblueを表す語がある。
  6. 色彩語が7個ある言語ではbrownを表す語がある。
  7. 色彩語が8個(以上)ある言語ではpurple, pink, orange, greyのうちの任意の1つ(以上の組み合わせ)を表す語がある。

 上記1-7を、次の一つの普遍的な規則にまとめることができる:

 
 
  8. 
 
 white 
 black 
 
 
  
 
 
 red 
 
 
  
 
 green 
 yellow 
 
 
  
 
 
 blue 
 
 
  
 
 
 brown 
 
 
  
 purple 
 pink 
 orange 
 grey 

 ここでa < b(‘b implies a’「bはaを含意する」; a, b はそれぞれ別個の色彩語カテゴリー)は、aはbが存在するすべての言語に存在し、bが存在しない一定の言語にも存在することを表す。ある言語にblueを表す語があれば、その言語には必ずred(ほかにwhite, black, green, yellow)を表す語があり、blueはもたないが規則8のblueの左隣のgreenまたはyellowをもつ言語にもred(ほかにwhite, black)を表す色彩語がある、という主張である。実に驚嘆すべきことである。これに止まらない。1→7,8は、色彩語のおよその発生順をも反映しているという。同種の含意的普遍特性は音声や、V(erb) とO(bject) の相対的語順と他の文法現象の間にも観察される。言語研究は私を魅了してやまない。

宇賀治正朋先生の最新刊

2006年7月28日 掲載


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