好奇心、問題意識、情熱、粘り強さ

彭飛(ぽんふぇい)(京都外国語大学教授)

 「お二階へどうぞ」と言うのに、なぜ、「お三階」とは言わないのか。なぜ、「雨が降っている」の場合、「は」ではなく、「が」を使うのか。なぜ「ちょっとない」のように、「ちょっと」を多用するのか。日本に来て22年。毎日、このような不思議な発見でわくわくしている。それら一つ一つの解明を課題に取り組み、論文や本の形で出版する。その知的な興奮と達成感は素晴らしい。この20数年で改訂版の本を含め、約20冊を出版し、500本以上の論評、コラムなどを書いた。外国人向けの日本語教育に関するノウハウも意欲的に発信してきた。全て好奇心、問題意識、情熱、粘り強さの産物である。いずれも欠かすことができない大事なものである。

 私は大学院時代、授業に出るたびに、質問を用意しておいた。授業後も必ず質問する。先生が答えなければ、自分で調べる。いま立場が変わって、大学院生の指導にもあたっている。院生諸君に「他人の論文を読まないとだめ、一方、他人の論文を読みすぎてもだめ、オリジナルの独自の研究を生み出すために」と説いている。研究課題はわれわれの日常生活の中に無尽蔵にある。

 今年4月の最初の授業に、院生全員に大学ノートを一冊ずつ配った。「日々疑問に思った単語、調べた単語、習った単語を、一日少なくとも10個、このノートに書いてください。ひょっとしたら、今後の自分の研究につながるテーマが生まれるかも」という宿題だ。翌週、チェックすると驚いた。院生の一人は小学生のように、同じ単語をそれぞれ10回ずつ練習しているではないか。思わず笑った。10個と10回の聞き間違えらしい。でも、ことばを覚えるにはこの方法が最も有効なのかもしれない。

 私は現在、二つのシリーズの出版に没頭している。一つは研究書シリーズで、その第一巻は『日本語の「配慮表現」に関する研究』(和泉書院)である。もう一つは一般読者向けの「日本と中国あれこれシリーズ」の本で、その一冊目は今日的な意味をもつ『日本人と中国人とのコミュニケーション』(和泉書院)である。来日当初のことばによる私の失敗や不思議な発見をまとめたものである。いま思うと、当時、不思議に思ったことをこつこつメモしたり調査したりしなければ、見過ごしてしまって、これらの研究は生まれなかったかもしれない。ことばを研究するには好奇心と問題意識と情熱と粘り強さが不可欠である。

2006年6月16日 掲載