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「形」が違えば「意味」も違う

高見健一(学習院大学教授)

 ある会社で、経営者側が新しいコンピューターを導入することで人員削減を行ない、経営の効率化を計ろうとしていたとします。経営者側がこのことを従業員に伝える際、次の能動文と受身文のどちらを言うでしょうか。

(1) a. There will be some redundancies as a result of the fact that we will introduce
      new computers.
   「私たちが新しいコンピューターを導入することで、余剰人員が出ることになります。」
    b. There will be some redundancies as a result of the fact that new computers
      will be introduced.
   「新しいコンピューターが導入されることで、余剰人員が出ることになります。」

コンピューターを導入して余剰人員を生み出すのは経営者側ですから、(1a) の能動文は事実を正しく述べた文です。しかし、経営者側が従業員に話すのは、(1a) ではなく、動作主の by us をつけない受身文 (1b) でしょう。これはなぜでしょうか。それは、(1a) のような能動文を用いると、余剰人員を出すのが自分たち経営者側の責任であることを明示してしまいますが、(1b) の受身文だと、動作主を伏せているので、責任の所在を棚上げできるためです。

 もう1つ別の状況を考えてみましょう。学生とその指導教官が、学生の論文を討議し、次のように言ったとします。

(2) Teacher: You should have discussed this problem at the beginning of the thesis.
    Student: Yes, I did discuss it in Chapter 1.

ここでは、指導教官は批判的トーンが強く、学生は挑戦的トーンが強いと感じられます。このような「対決」を避けるために、2人は、次のような受身文を用いるでしょう。

(3) Teacher: This problem should have been discussed at the beginning of the thesis.
    Student: Yes, it was discussed in Chapter 1.

この会話では、動作主を明示しない受身文を用いることによって、相手の責任を追求する文から、内容に関する文となり、「敬語的」表現になる、というわけです。

 高校までで学んだ能動文と受身文など、「書き換え」の対象となる多くの文は、それぞれの状況で適切な形が用いられ、決して同じ意味ではありません。つまり、言葉は、「形」が異なれば、その表す「意味」も異なっています。そして、それぞれの形式が表す意味やその違いを探るのは、楽しく興味深いものと思われます。

高見健一先生の最新刊

2007年5月11日 掲載


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