意味世界の面白さ: 対立と統一

河西良治(中央大学教授)

 例えば、youngとoldは、意味の対立関係を持つ反意語(antonym)であると意味論では分析される。しかし、この対立という現象には以下に述べるような興味深い特徴が観察される。oldは、‘He is very old’(彼は非常に高齢だ)のように、「年をとった」の意味も持つ一方で、 ‘How old is he?’(彼は何歳か)や ‘He is two [eighty] years old’(彼は2[80]歳だ)、 ‘He is not old enough to go to school’(彼はまだ学校に行く年齢ではない)のように、全年齢に言及できるような意味も持つ。一方、youngには全年齢をカバーできるような意味はなく、 ‘How young is he?’ という問いは、若いことが前提されて、どのくらい若いかが問われている。したがって、youngは、「年をとった」の意味のoldと対立しながら、全年齢を表すoldに包含されるという関係にある。oldが示す年齢範囲にはyoungの年齢範囲は包含されるので、oldはyoungと対立しながら、youngも含み、年齢全域に関する表現に用いられると考えられる。これは、old (old, young) のように書き表すことができる意味状況にある。このような状況は、deep (deep, shallow)、long (long, short) などにも同様に見られる状況である(‘How long [deep] is it?’ で、その長さ[深さ]が問われる)。longとshortを比べると、shortの示す長さは当然longの示す長さに包含されているが、その逆は言えない。したがって、long(長い)もshort(短い)も含めた長さ全般を聞くときは、‘How long is it?’ という疑問文になる。日本語でも同じ現象が観察される。「長い」-「短い」の対立は、「長さ」が統一し、「深い」-「浅い」の対立は、「深さ」が統一できる。しかし、日英語で違いが出てくる場合もある。それは、例えば、hotと「熱い」の違いである。水のような冷たいものの温度を問うときに、英語では、‘How hot is it?’ と言うことができるが、日本語では、「水の熱さはどのくらいですか」とは言わない。つまり、英語のhotはcoldと対立しながらcoldを包摂して温度の全領域を表せるのに対して、日本語の「熱い」は「冷たい」と対立するが、温度全般には言及できない。「水の温度は?」のように、「温度」という別な語を使用する。英語では、「湯」のことをhot waterと言えるが、日本語では、「熱い水」とは言わないで、別の語である「湯」という語を使うことと関係があるに違いない。さて、それでは、この違いはどこからくるのだろうか、これから先は自分で考えてみてください。

2008年3月28日 掲載