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英語における目的語の省略について−eatを例に

小野塚裕視(筑波大学教授)

 動詞には自動詞と他動詞の区別がありますが、区別の鍵は目的語の有無です。自動詞は目的語を伴わず、他動詞は目的語を伴って現れます。けれども、外見は自動詞でも、意味的には目的語が潜んでいると感じられる場合があります。例えば、

(1) Mary is reading.

という文は「メアリーは読書中である」という意味になります。このreadingという動詞は形の上では自動詞でも、意味上は不定の本を目的語として伴っていると考えることができますから、少なくとも意味上は他動詞であるとみなすことが可能です。(1)の場合は、潜んでいる目的語が何であるかを主に動詞が決めるという特徴があります。

 今度は次の例を見てください。

(2) One night the young man heard a tapping on the door
    and he opened to see what it was.

(2)には目的語のない動詞openedがありますが、意味上は目的語を伴っています。(2)では、潜んでいる目的語は、動詞の前にある言語的な文脈からthe doorであると理解されます。

 (1)や(2)のような潜在化した目的語を伴う動詞については、その目的語が省略されているという用語がよく使われますのでここでもそれにならいます。さらに、これらの例は英語の目的語省略の二つの代表的な場合を示していて、(1)は目的語の復元が主として動詞に依存するので動詞依存型と、(2)は目的語の復元が主として文脈に依存するので文脈依存型と呼ぶことができます。

 さて、ここからeatについての話に入ります。この動詞は目的語の省略を扱った文献ではたいてい取り上げられ、英語における目的語省略の説明をするのには格好の例と言えます。

 まずは動詞依存の目的語省略の場合で、この動詞は省略されているとみなされる目的語を普通はfoodまたはa mealに限定します(英英辞典の定義が参考になりますから自分で調べてみてください)。具体例を挙げます。

(3) Recently, I ate at the Rascal House in Sunny Isles. 
    I often do that.

(3)は「食事をした」という意味になりますが、これはレストランで食べるという文脈の影響でa mealが省略されているとみなされるためです。

(4) He’s always eating!

(4)は「食べてばかりいる」という意味になりますが、この文脈からfoodが省略されていると理解されます。このようにどちらが省略されているかは文脈に依存して決まることが多いのですが、いつもどちらかにはっきりと決まるわけでもありません。

 ところで、a mealが省略されている場合は、文が発せられる状況の文脈の作用で、1日の特定の食事にまで絞り込まれることがあります。

(5) Do we need to stop at McDonald’s? − No, Benjamin ate.

(5)の解釈には、このやりとりが行われる時間が重要になります。例えば朝の時間帯であれば、省略されている目的語は (the) breakfastとなります。

 (3)〜(5)の例は、動詞依存型の目的語省略においては主に動詞が、潜んでいる目的語が何であるかを決めるものの、文脈も重要な働きをしているということを示しています。

 次に文脈依存の目的語省略です。はっきりした例はあまり多くは見られないようですが、(6)の例はeatが文脈依存の目的語省略も許すことを示していると考えられます。

(6) He freed the sandwich and gave it back to me.
   “You’ve got a point,” I said.
    I paused to eat while I reread the information.

ここでは先行する文脈からthe sandwichが省略されている目的語と理解されます。

 このようにeatは、語彙依存の目的語省略と文脈依存の目的語省略のどちらも許すことがわかります。両方許す動詞にはplayやwashなどがありますが、eatもその仲間ということになります。

 多くの先行研究に基づいて動詞eatの目的語省略についてかなりはしょった説明をしましたが、これで英語の目的語省略の現象の複雑さの一端を理解してもらえたと思います。

小野塚裕視先生の最新刊

2007年11月9日 掲載


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