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「意味のからくりに目覚めていよう」

河西良治(中央大学教授)

「母親」という単語の意味を尋ねられたら、それは、母親が持っているような特徴を持つ人のことをいい、その特徴を持たない人は母親とはよばないというように、「母親」か「母親でない」かの二つのグループに分けるだろう。しかし、次のような文を考えてみよう。

(1) a.彼女は母親であって母親でない。
b.彼女は母親ではないが母親である。
c.彼女は母親は母親だ。

ここで「母親」をAとおいてみると、(1a) は「彼女はAであってAでない」、(1b) は「彼女はAではないがAである」、(1c) は「彼女はA はA である」と表記できる。一般的に、論理学では、‘A is not A’は矛盾を示し、無内容な表現と考えられ、また、‘A is A’のような同語反復は、AはAであるという、いわば、当たり前なことを伝え、情報量がゼロであると考えられる。しかし、日常の日本語では、これらの表現はすべて有意味で、一定の情報量を持つ適格な表現である。これらの事実を捉えるには、「母親」をめぐる少なくとも4つの意味領域を設定する必要がある。まず、母親らしい´´´母親、これは 「母親」という名前だけでなく、その内実´ ´(母親とよぶにふさわしいと考えられている 典型的な意味特徴)も十分持っている母親で、これを第一領域とする。次に、「母親」という名前を持つことは持つが、内実が十分備わっていない第二領域の母親。また、名前も内実もいずれもない第三領域。さらにもう一つ、「母親」という名前こそ持たないが、内実は母親と変わることのない、「事実上の母親」あるいは「母親同然の人」などとよばれる第四領域の母親である。(1) の例で、彼女はすべて「母親」とよばれるが、その領域が異なっている。(1a) (1c) は、「彼女は、母親とは名ばかりで、母親らしいことはやっていない」という第二領域の母親を指すことができる。(1b) は、「彼女は事実上の母親だ」と言い換えられるので、第四領域の母親である。「彼女こそ母親だ」と言えば、第一領域の典型的な「母親」を指すだろう。これらの「母親」の例が示すように、単語の指す意味の領域は、常識的な二分法的な理解とは違って、3つの異なる領域にまたがることがあることを知っておくことは、言葉の意味のからくりが持つわなを避けるための知恵の一つとなるであろう。

河西良治先生の最新刊

2008年1月4日 掲載


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